炭焼きの工程
備長炭や木炭は昔から焼かれていて歴史が長く、焼く技術も極まっているのに対し、竹炭は本格的に焼き始められたのがほんの十数年前からなので、まだまだ技術は発展途上です。
実際に焼いてみると、今までの木炭の焼き方ではうまくいかないことが多く、全国の竹炭の炭焼きやさんが竹に適したいろんな焼き方を現在試行錯誤しながら焼いています。
私もまだまだ試行錯誤していますが、現在の炭焼きの工程を紹介します。
[竹きり]
良い竹炭・竹酢液をつくるためには、まず材料の竹が良いものでなければなりません。
無限窯では5年生以上の古く硬く締まった竹だけを厳選し、夏は伐採から2〜3週間、冬は2〜6週間という新鮮な竹を使うようにしています(竹は特に夏場は水分や糖分を多く含むので、長期に保存するとカビが生えたり、虫に食べられたりしてしまいます)。
切りたての竹はヒビが入りやすいのですが、窯内で1週間ほど乾燥させることによりそれを防ぎます。また、水分が多いためなかなか炭化しにくく、時間と手間がかかりますが、その分炭化が緩やかになり、重量感のある硬質の竹炭ができるというメリットもあります。さらに、竹酢液も生命力のある上質なものが採れます。
また、小規模だからできることですが、責任をもって竹に関わりたいという想いから、窯主が選定・伐採した竹のみを使用しています(2003年から)。
竹の選定・伐採から炭材づくり・窯詰め・火入れ・窯出しまでを一人で行うことで、竹の特性や状態をしっかりと把握し、より良い竹炭・竹酢液を生み出そうとしています。
現在は東京都あきる野市にあるお寺の竹林で切らせていただいています。ここはとても日当たりが良く、同じ地域の竹林より1週間も早くタケノコがでるそうで、味も格別です。
そのため、切らせていただく5年生以上の竹もしっかりとした生命力のあるもので、とても気に入っています。
【切る道具は手ノコ。窯主が責任を持って吟味し伐採しています】 |
【チェンソーは楽ですが鉱物油がついてしまうので、竹酢液のために玉切りも手ノコです】 |
【竹の先まで丁寧に切ります】 |
【2窯でトラック6台分、あきる野市から檜原村まで往復2時間、約3日間で運びます】 |
[炭材作り]
無限窯では竹は根元に近い太い部分と穂先の細い部分の2つに分けて、別々の窯で焼いています。
手間はかかりますが、厚さを均等にすることによって炭化が同時期に起こり、より良い竹炭と竹酢液を作ることができます。
太い部分は4つ割りにして節をとり、向きを揃えて束ねます。細い部分は筒のままで束ねます。
【小さな電気丸ノコで同じ長さに切ります】 【より密に詰められるように節を取ります】 【こうやって麻紐で竹を縛ります】 |
【手づくりの竹割りを使っています】 【太い部分は四つ割りに】 【細い部分はそのままに】 【もちろん竹の上下も揃えます】 |
[窯詰め]
昔の木炭の焼き方は炭材を縦にするのが常識ですが、竹炭は横詰めと縦詰めと焼く人によって分かれます。横詰めの方が割れが少なくなり、縦詰めは作業性が良くなります。
無限窯では最近は縦詰めにしています(前の窯では横詰めでした)。割れが起きやすくなりますが、そこは窯内での乾燥を長くすることでカバーしています。
また、窯の壁際は火の回りが強いので、比較的太めの竹を並べ、中心に向かって細めの竹を並べ、なるべく同時期に炭化が始まるよう気を使います。
前の窯(日ノ出町時代)は窯口の前に障壁を設けて焼いていましたが、今回の窯は障壁を設けませんでした。障壁を設けると炭材に直接焚き木の火が入らずに済むため火力を強めることができ乾燥がしやすくなり、より空気の引きが良くなるとメリットも多いのですが、最後の精錬時には空気を効率よく送り込めず、結果として焼きが甘くなりがちなので今回からはやめました。
また、窯口に近い手前の部分に硬い木を入れ、炭材が燃えてしまうのを少なくして収量を多くするやり方がありますが、そのやり方だとどうしても木炭まで出来てしまい木酢液成分が混じってしまうため、無限窯では竹だけを詰めています。そうすることでより純度の高い竹酢液を採る事ができます。
【詰めるときはこの上の隙間から入ります。やせすぎが功を奏す?】 |
【竹は節で上下がわかるので、すべて逆さ向きにして立てます。その方がより乾燥しやすいそうです】 |
[火入れ]
【地元の職人さんに作っていただきました】
この道具で熾された火を「忌火(いみび)」と言って、清浄な火として、伊勢神宮ではすべての神事に使用しているそうです。
舞きり式という火起こし器なのですが、二本の棒を十字に通して、横棒についた紐を縦棒に数回巻いてとめます。こうすると横棒を上下に振ることで縦棒が回転するようになります。その縦棒の先端をV字の切り込みを入れた板に当てて擦り合わせて、その摩擦で火を熾す道具です。
マッチやライターのある現代、非常に手間がかかりますが、別のページでも詳しく述べていますが無限窯では炭焼きを一つの神事として行っていますので、その最初の起点の種火にもこだわりたいと思い、このような形にしました。
[乾燥(燻蒸)]
【初期のみ窯口の隣にある
2つの排気管から煙を出します】
夜は口を閉め薪をくべない方法もあるのですが、より温度の変化をなくしたいことから、日中は0.5〜1時間ごと、夜中は3〜4時間ごとに薪をくべ、温度を下げず、また上がり過ぎないよう気をつけています。
長時間乾燥を行うことにより、よりヒビが入りにくくなり、上質な竹炭ができます。
[炭化]
煙突の温度が約80度になると、煙からすっぱい刺激臭がしてきます。これが炭化の始まりの合図です。
熱分解という炭化の化学反応が起き、その時に熱が生じるので(自発炭化)、薪をくべるのをやめ、徐々に窯口を狭めていきます。
ここが炭焼きの大きなポイントの一つで、飛行機がきれいに離陸するように、急激な温度上昇をさせずに徐々に炭化に入るようにします。
薪をくべるのをやめるのが早すぎると、温度が下がって炭化が始まりません。また、遅すぎると自発炭化の熱と加わって急激な温度上昇(急炭化)が起き、竹炭・竹酢液の質に大きく影響します。
急炭化は特に竹酢液にとってはよくありません。竹や木の成分は大きくセルロース・セミセルロース・リグニンの3つに分けられますが、炭化初期にセルロースが熱で分解(炭化)し始め、次にセミセルロース、最後にリグニンが分解します。有害なタール分は最後のリグニンに含まれているので、このリグニンが多く分解を始める150度(煙突)以上は採取してはいけないことになっています。 しかし、急炭化を起こしてしまうと初期からリグニンの分解が多くなり、タール分を多く含む色の濃いものになってしまいます。ですので真っ黒な竹酢液は正直あまりオススメは出来ません。
ゆっくりと炭化をさせた竹酢液の色は木酢液のように黒っぽくはならず綺麗な琥珀色です。
炭化が始まると、温度が下がりそうになるくらいのギリギリのところまで窯口と煙突口を狭め、ゆっくりと炭化させます。
無限窯の窯は天井が低いのが特徴です。そのため窯内のどの場所でも天井との距離が同じくらいになり、炭材が同時に炭化する(天井までに距離があるとどうしてもその部分の温度が上がりにくくなるため炭化開始が遅くなります)ことから、炭化初期に窯口をより狭めても温度が下がらず、また、低温炭化を長期に保つことができ、リグニンの分解を少なく抑え、純度の高い竹酢液が採取できます。
[竹酢液採取]
炭化が始まる80〜120度(煙突)の時期に竹酢液を採取します。
通常は80〜150度とされていますが、無限窯ではより上質な竹酢液を採るため厳選しています。 無限窯の焼き方では低温を長期に保つので、120〜150度で採れる竹酢液の量がだいぶ少ないのも理由の一つです。 また、煙を冷やす煙突には安全で高品質のステンレス(18-8)を使用し、万が一どこかのつなぎ目に隙間が出来た際にも雨水が入らないよう雨よけをしています。 |
【煙突に通した煙が冷やされて雫になって落ちてきます。それを竹の樋で受けます】 |
【安全なステンレス(18-8製)の煙突を斜めにつけて煙を引いていきます。雨水が入らないようトタンを被せています】 |
【煙突の長さは30m。これ以上長くしても採れる量はあまり変わりませんでした】 |
【落ちてきた竹酢液を竹の樋で容器に流します】 |
【安全な甕(かめ)に直接ためます。ピコン、ピコンと心地よい音が響きます】 |
[精煉]
最後は窯口と煙突を徐々に開け、空気をたくさん送り、窯の温度を上げて仕上げをします。この作業を「精煉(せいれん)」または「ねらし」と呼んでいます。
これは残ったタール分を燃やし切り、燃やしても煙の出ない炭にするためや、硬質の炭を得るための作業です。
炭が煌々と赤くなっても、始めはゆらゆらと炎が出ていますが、これがなくなるまで続けます。煙突の温度で400〜450度まで上げます(窯の温度は800〜1000度以上)。時間は6〜9時間かけます。
窯の温度を上げれば上げるほど、窯の入り口付近の炭は燃え、収量は減ります(熟練の方になると窯内のガスも燃やすので、減りが少ないそうですが…)。その代わりに、通電性のある硬質な炭が出来ます。
「収量を取るか、質を取るか」昔から精煉は炭焼き職人の悩めるところです。
【精煉開始の目安として、マッチを
かざして何秒で燃えるか見ています】
このクライマックスの精煉は、静かであって高揚している、まるで月が満ちているような瞬間です。
【黒炭の焼き方なので、ゆっくりと見ていられます】